忘年会や会食が続く年末年始。「体が重い」「なんとなくだるい」「二日酔いが長引く」そんな不調を感じている人も多いのではないでしょうか。実はその不調、“肝臓”だけでなく「腸」が深く関係している可能性もあるといいます。
今回は、松生クリニック院長・松生恒夫先生に、年末年始に起こりやすい「停滞腸」とお酒との関係、腸にやさしい飲み方・食べ方について、nomooo編集部が詳しく話を聞きました。
松生 恒夫先生

松生クリニック院長/医学博士
6万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきた腸疾患治療の第一人者。便秘外来の専門医として、地中海式食生活、漢方療法などを取り入れた診療を行う。著書多数。
年末年始の「なんとなく不調」、実はよくある?

編集部:年末になると、食べすぎ・飲みすぎだけでなく、「体が重い」「やる気が出ない」「なんとなく調子が悪い」と感じる人が増える気がします。これは医学的にもよくあることなのでしょうか?
松生先生:はい、年末は飲食の機会が増えるだけでなく、寒さや運動不足、生活リズムの乱れが重なりやすい時期です。こうした要因が自律神経のバランスを崩し、その影響で腸の動きが低下しやすくなり、その結果、そういった症状が出やすくなるのです。また、冬は体が冷えやすく、水分摂取量や活動量が減ることで、腸の動きが鈍くなりやすい季節です。特に年末年始は外食やごちそうが増え、食生活が乱れがちです。冷え対策と水分補給を意識した腸ケアがとても重要ですね。
お酒は腸にどれくらい影響する?

編集部:年末年始はお酒を飲む機会も増えますが、正直なところ、腸にどの程度影響するのでしょうか?
松生先生:アルコールは腸の粘膜を刺激しやすく、飲みすぎが続くと腸内環境が乱れやすくなります。また、アルコールには利尿作用があるため、水分不足になりやすい点も注意が必要です。体内の水分が不足すると便が硬くなり、腸の動きが鈍くなってしまいますね。
編集部:腸の負担を減らすために、最低限意識したほうが良いポイントはありますか?
松生先生:量・飲み方・組み合わせ、この3つを意識することが大切です。特に、空腹で飲まないこと、飲酒中に水分をしっかりとることは基本になります。また、おつまみとして食物繊維や発酵食品を取り入れるのもおすすめです。腸内で善玉菌の働きをサポートし、アルコールによる腸への負担をやわらげてくれます。
年末年始になりやすい「停滞腸」とは?

編集部:腸が疲れた状態になり動きが弱くなると、具体的にどうなるのでしょうか?
松生先生:便やガスが腸内にたまりやすくなり、「停滞腸」という状態になる可能性があります。病気ではありませんが、冷えや運動不足、食生活の乱れなどが重なると、腸の動きが鈍くなり、いわば“渋滞”が起きてしまうのです。「体が重い」「疲れが抜けない」「なんとなく調子が悪い」といった全身の不調につながることも少なくありません。
編集部:年末年始に急いで始めるダイエットって成果が出にくいと感じるんですが、これも「停滞腸」になりやすい時期だからとか?
松生先生:便やガスがたまると、お腹まわりがすっきりしにくくなります。これが「太った気がする」「痩せていない」と感じる大きな理由のひとつです。腸が停滞した状態が続くと、食事量を減らしても体重が落ちにくいと感じやすくなるんです。また、腸内環境が乱れると、代謝を支える腸内細菌の働きも低下しやすくなります。年末年始は「無理に減らす」より、まず腸を整えることが大切ですね。
飲み会の席で選びたい「腸にやさしいおつまみ」

編集部:「停滞腸」を回避するために、飲み会の席で「これを選んでおくと腸にやさしい」というおつまみはありますか?
松生先生:食物繊維と発酵食品を意識することがポイントです。例えば、枝豆、海藻サラダ、冷ややっこ、納豆、ぬか漬け、きのこ料理、味噌を使ったメニューなどは、腸内環境をサポートしやすく、飲み会の場でも取り入れやすいですね。
編集部:たくさん飲んだ翌日に、腸のためにやるべきことってありますか?
松生先生:まずは水分補給です。常温の水や白湯をこまめにとりましょう。食事は、いきなり重たいものを食べるのではなく、味噌汁やおかゆ、野菜スープなど、腸にやさしいものがおすすめです。避けたいのは、迎え酒や脂っこい食事、無理な断食です。翌日は「頑張ってリセットする日」ではなく、腸を休ませて整える日と考えてください。
年末年始は「頑張るダイエット」より「整える」を意識

編集部:なんだか腸にとっては最悪な時期のようですが、こちら側も「整える」意識を持つことが大切そうですね。
松生先生:先ほども話題にあがった「ダイエット」についてもそうですが、年末年始は無理に食事量を減らしてリセットしようとはせず、腸を動かしやすい状態をつくる、つまり「整える」ことをまずは意識してほしいですね。私が提唱している「地中海式和食®」は、我慢や制限を前提にしていません。お酒をやめるのではなく、食材の選び方で腸を守るという考え方です。水溶性食物繊維が豊富な海藻類をとり入れる、砂糖をオリゴ糖に置き換える、油はオリーブオイルを上手に使う。これなら、お酒を楽しむ人でも無理なく続けられます。
意識しないと不足しがち?腸を支える食材とは

松生先生:年末年始や飲酒が続く時期に、特に意識したいのがオリゴ糖・オリーブオイル・水溶性食物繊維の3つです。
オリゴ糖
腸内の善玉菌のエサになりますが、普段の食事では不足しがち。ケーキやおせちなど甘いものが増える時期こそ、甘味料をオリゴ糖に置き換えるだけでも、腸内環境のサポートにつながります。
オリーブオイル
腸管内のすべりを良くし、排便を助ける働きがあります。「油は控えよう」と思いがちな時期ほど不足しやすいため、サラダや料理に少し足す意識が大切です。
水溶性食物繊維
便をやわらかくし腸の動きを促すだけでなく、腸内環境の改善にも役立ちます。海藻類や雑穀などを一品加えるだけでも、無理なく取り入れられます。
完璧を目指すよりも、不足しがちなものを意識して「足す」ことが、年末の腸ケアの近道です。
意外だけど理にかなっている「オリーブココア」

先生のおすすめは「オリーブココア」、腸を整える要素を一度に、無理なく取り入れられる飲み物です。甘味をオリゴ糖にすることで善玉菌のエサを補い、ココアに含まれる食物繊維が腸のぜん動運動をサポート。さらに、オリーブオイルが腸管内のすべりを良くし、排便をスムーズにする働きが期待できます。
ココアには体を温める作用もあり、冷えによって腸の動きが鈍くなりやすい冬の時期にもぴったり。温かい飲み物で腸を内側から動かす、という点でも理にかなった組み合わせです。
材料(1人分): ホットココア150ml、オリーブオイル小さじ2、オリゴ糖小さじ1~2
作り方:材料をすべてカップに入れて混ぜ、表面に薄い油膜が広がったら完成
完璧じゃなくていい。腸ケアは「できることから」

年末年始の不調や正月太りは、飲みすぎや食べすぎだけでなく、「腸の停滞」が関係している可能性も。お酒をやめるのではなく、腸にやさしい飲み方・食べ方を意識することが、年末を楽しむコツですね!
~お酒好きなみなさんへ~
年末年始は、人と集まり、お酒や食事を楽しむ大切な時間です。
「飲みすぎた」「太ってしまった」と必要以上に自分を責める必要はありません。
大切なのは、年明けからどう立て直すか。
数日間乱れた食生活だけで腸が大きく壊れることはありませんので、焦らず、腸をいたわる時間をつくってあげてください。
具体的には、水分をしっかりとりながら、オリゴ糖や水溶性食物繊維、オリーブオイルなどを取り入れた地中海式和食®や、無理のない7日間の大腸リセットを意識するだけでも十分です。
「楽しむときは楽しむ、整えるときは整える」。
そのメリハリが、長く健康的にお酒と付き合うコツだと思います。
松生クリニック院長 松生 恒夫









