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”ブームから文化へ定着させるために” 「ナガノトレーディング」大平さんに聞いた!クラフトビールのこれから【後編】

クラフトビールのブームが起きる前からアメリカのクラフトビールを取り扱っている、業界の”パイオニア”「ナガノトレーディング」代表取締役・大平朱美さん。

インタビュー前編にて、会社設立時の苦労やクラフトビールブームの背景についてのお話を中心に、お話いただきました。(前編の記事はこちら

後編となる今回は、ナガノトレーディングがこだわる「温度管理」についてや、クラフトビールのこれから、今後のトレンドなどについて、聞いてきました。

ビールは常温保存でOKというのが常識だった日本

▲横浜にある「Antenna America(アンテナ アメリカ)横浜店」

-IPAもそうですけど、クラフトビールそのものを日本に広める上で、苦労した点ってありますか?

大平さん:「お客様の前に、導入いただく店舗さんや取り扱う方々へ“正しい知識”を広めるのが大変でした。クラフトビールって物凄く繊細で、温度管理や品質管理もすごく難しいんです。

でも、当時の量販店さんも店舗さんも”ビールは常温でOK”というのが常識だったんですね。ビール樽もそうですし、ボトルも含め“常温”の形で売り場に置かれていて、そこからお客様が手に取るというのが当たり前だったんです。温度だけでなく、日光もそうですし照明の光でも劣化してしまうほど繊細なものを常温で置いておけば……当たり前のように劣化してしまいますよね。

実際、飲んでみるとや明らかに劣化しているビールも多かったんです。劣化しているのにもかかわらず、海外のビールだから高いのは当たり前。高いお金を払って、劣化したビールを飲むのはおかしいんじゃないかと、ずっと感じていました。

-高くて美味しいならわかりますが、高くてマズイじゃ手に取らなくなりますよね。

大平さん:「初めてクラフトビールを飲んで”美味しくない”と感じたら、二度と手を出さなくなりますよね。特に日本人はその傾向が顕著で。ビールに限らず、セカンドチャンスなんてほぼあり得ない

一度でも劣化して美味しくないクラフトビールを飲んでしまうと、興味があったのにそれ以降手にとってもらえる可能性が少なくなってしまうんです。」



試行錯誤の末にたどり着いた「徹底した温度管理」

▲ビールは全て冷蔵管理。現地の美味しさを日本でそのまま楽しめます。

-結果として、どのような形でビールの劣化を防ぐことに成功したのですか?

大平さん:「ビールというのは、ボトル入れ・樽入れした瞬間から劣化が始まっていきます。劣化を防ぐというよりは、“劣化のスピードを遅くする”ということしか、私たちにはできません。劣化のスピードをできるだけ遅くするにはどうするか、様々な試行錯誤鵜を繰り返した中で、行き着いたのが『冷蔵管理』という方法でした。

ブルワリーからトラックに載せる、トラックから港に降ろす、港から船に載せる、船から降ろして倉庫に保管するといった全ての工程において“一定の温度で管理”するという方法を取り始めたんです。もちろん、そうすることでコストも時間もかかりますが、これによって品質管理が徹底できるようになったんです。」

-業界にとって革命的な出来事ですよね!消費者からすると美味しいビールが飲めるので嬉しい限りですが、同業者からは様々な反応があったんじゃないですか?(笑)

大平さん:「業界的には今まで常温で良しとされていたものが覆されてしまうわけですからね…(笑)。

でも、私たちにとっては必要なことですから、この冷蔵管理(品質管理)を私たちの会社のポリシーにしようという決定をしました。私たちはメーカーではないので「ビールをおいしくすること」はできませんが、「ビールをブリュワリーのタップルームと同じ味」ということを標準にしようということですね。飲んでいただいたお客様に「現地に行って飲んだ方が美味しい」より「現地と100%同じ味」と言ってもらえるビールをお届けしようと決めたのです。

-現在では世界的に冷蔵輸送がスタンダードになっているんですか?

大平さん:「今でこそ『クラフトビールは冷蔵ですよね』と言われていますし、『冷蔵輸送』を謳っている会社さんも多いですけど……実は、最初から最後までの工程を冷蔵管理をしているかどうかは別の問題なんです。

『冷蔵管理しています』と謳っていても、実は冷蔵しているのが海を渡る船の中だけで、その前(港に運ぶまでのトラック)やその後(船から下ろした後の日本に着いてから倉庫から販売店)までが常温だったりということが、日本だけでなく世界でも普通に発生している状態なんです。

ただ、輸送ルートでの温度差が大きければ大きいほど劣化のスピードは早まります。一旦劣化してしまうと元の味には戻りませんからね。『船だけ』『倉庫だけ』冷蔵しても、途中を無視してしまうとその分冷蔵代がかかるだけ。コスト的にももったいないんですよ(笑)」

-冷蔵管理ってそんなに大事なんですね......。今でも、ビールの温度管理をあまり気にしていないお店ってたくさんありますもんね。

大平さん:「弊社では取り扱いの具体例として、「ビールを牛乳と同じように扱う」ことをご説明しています。牛乳は配送も管理もずっと冷蔵されていて、お客様もお店で購入された後自宅に持ち帰るときには、日に当たらないようにしますし、できるだけ早くフレッシュなうちに消費しますし、決して車のトランクに放置したり、自宅テーブルに出したままにはしないですよね。

始めた当初だけでなく、今の営業スタッフにとっても、未だに本当に風当たりも厳しいときもあるのが実情なのですが、弊社の場合は「商品の取り扱い、保管、サービングのための冷蔵スペースがあります」「冷蔵販売できる場所があります」というお取引先様にしか販売はしていないんです。

ビアバーにしても、樽自体を冷やす”空冷式”のビアサーバーを導入しているところとしかお取り引きはしていないんです。もしも設備がない場合は、当社からサーバーをお貸出ししたり、設備導入のご相談やご案内をさせていただくことも多いです。」

-なるほど!ということは、ナガノトレーディングのビールが置いてあるお店というのは…

大平さん:「はい、お店でも徹底した温度管理がされているので、確実に美味しい状態のビールが楽しめます!

また、お取り扱い店舗さん向けには定期的にセミナーを開催したりしています。それこそ、おいしいビールの提供のためには、温度管理の大切さを知っていただく以外にも、正しいサービングや味を左右する洗浄方法も大切な要素です。

そういった日々の実務の部分に加え、アメリカにも拠点を持つ輸入会社だからこその視点からの情報や、タイミングが合えば実際にブリュワーやブリュワリー関係者が来日した時に、トークセッションを開いたりもしているんです。」

-それはビールを取り扱うお店さんにしたらとても勉強になるし、ビールが好きな方にとって単純に楽しそうですね!

大平さん:「もちろん、私たちも売り上げを伸ばしたいという気持ちはあります。ですが、クラフトビールは日本でまだまだ小さいマーケットですから、日本全体の土壌が広がらない限り、それは実現しないんですね。

だからマーケット全体を盛り上げるためにも、自分のところの取引先だからとかそういったことじゃなくて、業界全体として、みなさんが参加しやすいアプローチをすることが大切だと思うんです。

そして、そういう取り組みを日本でできるのは、世界的に見ても大きなブランドを抱えている私たちの使命だと感じています。」

現在のトレンドと今後のクラフトビールの流行

-今って、世界的にどんなスタイルのビールが流行っているんですか?

大平さん:「今が旬なのは、『HAZY IPA(ヘイジー・アイピーエー)』と呼ばれるIPAの派生系のスタイルがトレンド真ん中ですね。濁っていて、ジューシーな甘味を感じるのが特徴なんですが、ガツンとした苦味の強いIPAに対するカウンターカルチャーとして登場した感じですね。

IPAの特徴は継承しつつも、ジューシーになって飲みやすさが際立っている。あと数年はこのブームが続くんじゃないかなとも思いますが、“ある点”を懸念しているんです。」

-“ある点”というのは?

大平さん:「WEST COASTスタイルの IPAが出てきた時もそうだったんですが、流行すると何でもかんでもそのスタイルに寄せちゃう風潮はあるんですね。でも、しっかりとした技術を持った上で作らないといけないですし、何事もバランスが大事なので、何でもかんでもHAZYにすればいいってものでもないんです(笑)

最初は物珍しさで飲んでいたお客さんも、だんだんHAZYに対する知識がついてきますから。そういった意味では、ここから数年は本当に美味しいHAZY IPAを出さないと生き残れない時代になっていくんじゃないかなと思います。」

-じゃあ、HAZYの次に流行るとすると……どんなスタイルですか!?(笑)

大平さん:「ん〜(笑)難しいですけど…。ビールって本当に一期一会なところがあるし、読めない部分はあるんですけど……。WEST COASTスタイルの IPAがまた再評価されてていて『流行』というよりも『ビール文化の一要素』として見直されている感じはありますね。

コーヒーを使ったビールなんかも多くて、各社こだわりのサードウェーブに乗っている兆しがあるのかなとも思います。もともとアメリカではコーヒー好きとビール好きって層が似ているので、必然といえば必然な流れなのかもしれません(笑)

▲SNSでも大きな話題を呼んだ『Firestone Walker』の『Lager(ラガー)』

必然という意味でいうと、ここ最近『ラガー系*』が注目されていて、各社いろいろと出してきていますね。ちなみに日本でもすでにその気配はあります。

弊社ではIPAなどに比べるとラガーの売れ行きは伸びにくいのですが、『Firestone Walker』から出ている『Lager(ラガー)』はSNSでも大きな反響があり、売上も段違いに飛躍しています。これからの流れが楽しみですね。」

*ラガー系:下面発酵で醸造される、ビールスタイルの一種。日本の大手ビールメーカーが販売しているビールは、ほとんどがラガーなので「ビール=ラガー」と思っている日本人も少なくはありません。

クラフトビールが”ブーム”ではなく”文化”になるために必要なこと

-今後、クラフトビールが日本に根付くために必要なことというのはどういったことなのでしょう?

大平さん:「そうですね、まずは一過性のブームではなく文化として定着させることが大切だと考えます。まずは、多くの方に飲んでいただくことが大切ですよね。国内はもちろん、世界各国からクラフトビールはたくさん出てきて輸入も開始されています。単純に、消費者にとっては選択の幅が広がっているんです。

その中で、舌が肥える(味の違いがわかる)ようになっていただくことは非常に大切なんじゃないかなと思うんです。『〇〇が美味しいと言っていたから』『〇〇に置いてあってから』ではなくて、自分の主観で美味しいかどうかを決めて、本当に美味しいと思ったビールを飲むことがブルワリーを支援することにもつながりますので。

-なるほど、消費者の私たちが自分たちで好みのビールを選べるようになることが大切ということですね!

大平さん:「はい。そのためにも、一般のレストランの方にもっとクラフトビールという選択肢を持っていただけるとありがたいなと思います。料理に合うお酒として、普通にクラフトビールを提案できるようになっていただいて『クラフトビールの敷居を高くしない』ことが大切です。

アンテナアメリカが、フードコートスタイルにして営業しているのも、敷居を下げるための工夫でもあるんです。知識がなくても全然恥ずかしくない、そのためにスタッフがいるので『甘いのが飲みたい!』『軽いのが飲みたい!』とアバウトな好みを伝えて、自分の好きなビールを気軽に選べるようになってほしいですね。

あとは、やはり日本のクラフトビールメーカーさんを応援しています。やはり、クラフトビールって地産地消というか地域ありきなので。大きいスーパーなんかでは、日本のクラフトビールのコーナーが中央にドンとあって、その横に私たちのような海外のクラフトビールを置かせていただくというのが正しい形だと思うんです。

日本のクラフトビール市場がもっともっと大きくなって、ビール好きの人が増えることで、選択肢の1つとして私たちが取り扱うアメリカンクラフトビールを楽しんでいただけるようになればいいなと思っています。

店舗概要

「アンテナアメリカ 横浜店」

営業時間 11:00~23:00(L.O.22:40)
定休日 ​不定休(ジョイナスの休業日に準ずる)
住所 ​神奈川県横浜市西区南幸1-5-1 新相鉄ビル(ジョイナス) B1F
電話 045-548-8733
Facebookページ https://www.facebook.com/antennaamericayokohama/

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